昔のお札から印刷技術の進歩を探る
我が家には、古いお札が数種類スクラップされています。
昔の印刷技術と今の印刷技術とでは歴然とした差があるのではと思い、拡大観察をしてみることにしました。
同じ条件で観察できるように、倍率は100倍に固定し、人物像であれば目の部分を拡大観察をしてみました。
1円札の観察
1円札です。1889年(明治22年)に発行されたお札で、武内宿禰という忠臣が描かれています。
思っていた以上に繊細な印刷が施されていて、目と鼻のくぼみ間や、目力を感じますね。
出だしから突然の寄り道になりますが、この1円札、表は中国のお札を思わせるようなデザインですが、裏側を見ると、捺印以外は全てアルファベットです。
欧米の紙幣のようで、シンプルながらモダンなデザインに驚かされます。
10円札の観察
10円札です。1930年(昭和5年)に発行されたお札で、描かれているのは和気清麻呂という奈良時代末期~平安時代初期にかけての貴族だそうです。こちらも結構繊細な印刷です。
5銭札の観察
5銭札です。5銭というと硬貨のイメージがありますが、1944年(昭和19年)に発行されたお札です。
楠木正成という鎌倉時代末期~南北朝時代の武将で、皇居広場前の像が描かれています。目の部分は小さくなってしまい見えにくいですが、全体的に印刷の繊細さに欠ける印象です。
その他の古いお札の観察
次の3枚は人物が描かれていませんので、特長のある部分を観察してみました。
50銭札です。1938年(昭和13年)に発行されました。
主役は富士山です。
五の文字の上の桜の花びらを観察してみました。。割とシンプルな印刷になっています。
同じく、50銭札です。上のお札の後の1942年(昭和17年)に発行されました。
主役は靖国神社の鳥居です。右上の金鶏の顔を観察してみました。こちらも割とシンプルな印刷になっています。
10銭札です。1944年(昭和19年)に発行されました。
八紘一宇の塔(宮崎県の平和の塔)が描かれています。塔の先端部を観察しました。塔の先端は意外なほどシンプル印刷ですが紫色の光が塔と町全体を包み込んでいるようで、不思議な国の印象を与えてくれるお札です。
戦後~近代のお札を観察
少し時代を進めてみましょう。
1000円札です。1949年(昭和24年)に発行されました。
主役は,ご存知、聖徳太子です。
シンプルながらも精細な印刷です。
ちなみに、このかたは、1929年(昭和4年)発行の100円札で登場し、今回の1949年(昭和24年)に1000円札、1958年(昭和33年)には10000円札に描かれ、順調に昇格の道を歩まれました。
500円札です。1951年(昭和26年)に発行されています。
岩倉具視という太政大臣が描かれています。
非常に精細な印刷です。青色基調の印象を与えてくれるお札です。
100円札です。1953年(昭和28年)に発行されました。
政治家、板垣退助が描かれています。シンプルながらも精細な印象です。
500円札と違って、茶色基調の印象を与えてくれるお札です。
現在のお札を観察
それでは、現在の10000円札を観察してみましょう。
福沢諭吉さんの目、非常に精細ですね。白目の部分も細かく描かれています。
全体に赤い縦線を入れているのは、偽造防止の工夫が施されているのでしょうか。
今回、明治時代からのお札を拡大観察してみると、昔から印刷技術は高かったことが
わかります。現在の技術はさらに進歩しているわけですが、通常の印刷だけの技術では
偽造防止には限界があるのでしょうね。
現在のお札には、さらに現代的なハイテクが追加されています。
その一つがホログラムです。角度を変えて見ることにより、様々な情報が得られます。
撮影機種:DS-400Cマイクロスコープ
DS-kEI-01 蛍光灯照明(反射を抑える効果がある)
ホログラムの部分を、観察角度を変えて観察してみました。
観察方向、照明方向によって様々な色合いを見せてくれます。
観察体を斜めにする、DS-FSTG-01自在ステージを使用し、撮影しました。
斜め左から観察
真上から観察
斜め右から観察
すき入れ(白黒すかし)という技術も入っています。
紙の厚さを変えることによって、描画表現する偽造防止技術です。
紙の薄くした部分(白すかし)と厚くした部分(黒すかし)を組み合わせることにより、濃淡の差から表現をしているそうです。
上の画像は、紙幣に対して、一般的な真上からの照明で照らすのではなく、“透過照明”といって紙幣の裏側から照明を当てることによって、透けて見えてきた画像をとらえるという方法で拡大観察を行いました。
2024年には、新しいお札が発行されます。
10000円札は茶と緑が基調となるので、現在の10000円に少し近い印象でしょうか。
5000円札は紫が基調となるので、1944年の10銭札のように味わいがあるかもしれません。
1000円札は青が基調となるので、1951年の500円札に近い印象でしょうか。
全てのお札が、最先端技術を駆使した“ホログラム技術”と、さらに精度を高めた“すき入れ技術”を組み込んでいるそうです。
この先、紙幣はさらに進化していくのでしょうか?
それとも完全キャッシュレスの時代となり、昔は印刷を工夫した紙で、物を買っていた時代があった、などと未来の時代では言われてしまうのでしょうか。